Q.今の地域に住むまでの経緯を教えてください。
もともと海沿いの田舎の出身なんですけど、山での田舎暮らしがしたかったんです(笑) 九州から関東までいろんなところを転々として、紆余曲折あって9年前に和歌山に帰って来ました。しばらく新宮に住んでいたんですけど、山奥の家が空いていたと聞いて喜び勇んで引っ越してみたものの、太陽が10時に出て14時に沈むという想像以上に寒いところで、畑の作物は野うさぎや鹿に片っ端から食べられてしまうし、通勤もしんどくて。結局、2年ぐらいで挫折して市街地に戻りました(笑)
結婚を機に新宮を出ることになったんですけど、今度は山間部でも日当りが良くて寒くないところがいいなと希望しました(笑)運命みたいに今の家に出会い、即決でした。写真でしか見たことがなかった「風伝おろし」が家の窓から見えるし、畑も出来そうだったし、農業を超頑張っている「夢アグリ」というエコファーマーのグループがあるし、農作物の直売所も近くにあって、野菜も米も美味しいと評判で、もうここしかない!って思いましたね。
Q. 住んでからの生活はいかがでしたか?
引っ越した当時は妊娠中で、安静にしておかないといけなかったので思うように動くことが出来なくて、結局入院してしまったんですけどね、子どもが生まれてからはもっと動けなくて。自分のことが何もできないストレスがすごかったです。その頃は周りに友達もいないし、近所のおばあちゃんとは仲良くしていたんですけどね、社会との繋がりがないというか、自分には価値がないって暗くなってました。子どもは可愛いし子育てが嫌というわけじゃないけど、家のことだけ、子どものことだけをしている生活はつらかったです。子育て支援室っていうのを行政がやってくれてるんですけど、そこまで行くのに車で20分くらいかかるんですよ。数回行って、足が遠のきました。「今日、人間と喋ってないかも…」なんて日もありました。やりたいことがあるけど子どもがいたら思うようにできないし、元気もなければ収入もない…、という感じで1年ぐらい悶々としながら過ごしていました。
息子が1歳になろうとしていた頃、本宮に移住した主婦たちが主催している「イコラポカラ」という青空市に行ったんですよ。会場内でたくさんの子どもが走り回っていて、子連れのお母さんが赤ちゃんをおんぶして店を出してたり、小さな子どもが店を手伝っていたり。みんな笑顔ですごく楽しそうで、生き生きしていて、キラキラしていて、子どもがいてもやりたいことを諦めていない人たちがたくさんいたんですよ。「私も仲間に入りたい!そういう人たちと一緒にいたい!」とそのとき強く思ったんです。でも、自分には売るものもなければ特技もない…。ただ畑をやりたい、ハーブを栽培したいという思いがあったので、とりあえず畑を借りるところから始めてみました。畑といっても何年か放置されていて雑草天国なんですよ。1歳の息子が常に一緒なので、なかなか作業がはかどらなくて、とにかくしんどかったです。自分より背の高い雑草たちを1週間ぐらいかけて草刈りして、草は燃やせと言われたので集めて乾かしてから燃やして。けっこうな広さだったので、草刈りだけで夏が終わりそう…なんて思いながら作業してたら、通りがかりのおっちゃんたちが「協力したるよ」って言ってくれて、トラクターで土起こしてくれたり、畝立てを機械でやってくれたり、植え付けをしていたら「芋の苗あげるよ」と言ってくれたり、有り難いことに協力してくれる人がどんどん増えました。
そうこうしていると直売所の組合に登録しないかと声を掛けていただいたので、ハーブなどをちょっとずつ出品するようになりました。毎月数千円の売り上げでしたけど、専門書を買ったり、資格を取ったり、ハーブクラフトの材料を買ったり、少しずつ前進しました。冬が来るころには「木花堂」さんや個人宅でアロマキャンドルやハンドクリームなどを作るワークショップをさせてもらうようになって、なんと憧れの「イコラポカラ」(2015年1月)に出店できることになったんですよ!利益はほとんどなかったんですけどね、青空市に出店するとか初めてのことだったし、ひとつ夢が実現できたっていう達成感を得ることができて嬉しかったです!気がついたら友だちも増えてました。
― 今取り組まれている「みはまるしぇ」の活動もそこから始まったのですか?
そうですね〜。「イコラポカラ」のあと、3月に「須野(すの)マルシェ」に参加したんですけど、低予算でもマルシェができるんだ!会場が判りづらいところでも国道から離れていても人は来てくれるんだ!って、色々な意味で刺激を受けたんですよ。4月には本宮で「イコラポカラ」、熊野川で「九重(くじゅう)マーケット」に参加したんですけど、三重県サイドの知り合いや友だちから「こっちでもイコラポカラみたいなのをやってほしい」っていう声があって、それで「みはまるしぇ」を5月末にやることになりました。 開催日の一ヶ月前から動き始めたので、今考えたらだいぶ無謀でしたね(笑)
Q. みはまるしぇに出店される方はどのような方が多いですか?
子育て世代が子連れで出店しやすいようにしているので、手芸や工作など物作りが好きな同世代のお母さんが多いですね。子どもが一緒だと制作時間が殆どなくて、昼寝している時や夜中にコツコツ作業する感じなんですけど、「子育てと家のこと」をするだけの毎日に新しい目標が出来て、生活が楽しくなってきたってよく言ってもらえます。
最初はお母さんが多かったけど、今ではお父さんも増えて、おじいちゃんやおばあちゃんの参加も増えてます。「自分も何か作って売ってみたい」という子ども店長も増えてます。
お店を持ちたいという夢がある方や、学生さんの参加もあればいいなって思ってます。
Q. 子どもが店を出すことについてどうお考えですか?
とても良い経験だと思います。うちの子(小学3年生)は企画から仕入れ販売まで全て一貫して自力でやってるんですけど、やってみて初めて判ることも多いし、色々な面で自信につながると思うんですよ。将来、就職して、ある日突然リストラされたとしても、自分で仕事を生み出せる力が備わっていれば何処でも生きていけると思うんです。商売はお客さんがあってこそ成り立つもので「感謝の気持ちがお金になる」ということも実感できますし、色々な人に支えられていることも体感できます。学校では学べない貴重な体験だと思います。
手作り品の販売だけではなくてワークショップもやっているんですけど、人に何かを教えたり伝えたりすることって、簡単なことじゃないですよね。大人でも難しいと感じることを、子どもの頃から創意工夫しながらやってみるって、すごい財産になるんじゃないかと思います。
Q.特に大事にされてる考えはありますか?
九重マーケットのときに、お香づくり体験をやったんですけどね、その時に、「こういう体験ができる機会がもっとあればいいな」っていう声をたくさん聞いたんですよ。子育て世代が求めているのは、「体験」なんだって強く感じたんです。体験を通して、子どもの得意なことや好きなことが判るし、つくることはただ楽しいだけではなくて、その大変さもわかって、ものを大事にしようと思う気持ちにも繋がるし、つくってくれた人に感謝の気持ちを持つこともできて、心が豊になると思うんです。
あと、農作物だけではなくて、日用品や服、家具なども地元でつくっている人から買って、循環させていく「地産地消」がやっぱり大事だと思いますね。壊れたら直してもらえるし、リメイクもできるし。それから、音楽、知識、技術なんかもちゃんと地産地消していこうよ、っていつも思っています。みんな謙遜して破格の価格設定をしているけど、ちゃんと利益が出るように価値を上げていってほしいなと思っています。
Q. みはまるしぇはどのような場だとお考えですか?
「みはまるしぇは出店者とお客さんとの間に壁がないね」「ゆるい一体感が心地よい」などと言ってもらえます。作り手の顔が見えるし、話もできて安心できる。出店者自身がみはまるしぇを楽しんでいて、利益を出そうとガツガツしていないので雰囲気が柔らかいというか。
人と人との繋がりと体験を大切にしている青空市なので、みはまるしぇがきっかけで仲間ができたり新たな夢ができたり、可能性も広がればいいなと思ってます。
Q. みはまるしぇは今後どのようになっていくのでしょうか。
みはまるしぇの拠点となる、実店舗があればいいなと思っています。みはまるしぇ出店者の品物が揃っていて、物作りなど様々な体験ができる。出店者やお客さん同士の交流もできて、友だちも増える。行けば何か楽しい事が待っている、そんな場所を作りたいですね。
私自身、みはまるしぇがきっかけで知り合い仲良くなった人が沢山いて、応援してくださる方も増えました。みはまるしぇ出店者の交流会もやっているんですけど、みんな本当に仲良しなんですよ。日々の雑談はもちろん、夢を語ったり相談したり、切磋琢磨して次に繋げたり。子どもたちも毎回すっごく楽しそうに遊んでいます。暗くなっても帰りたくないって泣くほどですよ(笑)ずっと良い関係でいられたらいいなって思います。
最後に…、みはまるしぇの活動が、地域活性化に繋がり、地元に帰って来てくれる人が増えるといいなと思っています。
いつも、あたたかいご支援ご協力、ありがとうございます。
(取材・編集:横田直也)