根來真代さん

プロフィール

根來真代(ねごろまよ)さん
1986年生まれ 福島県出身

家 族 : 3人(夫:根來文博さん、子)
仕 事 : 主婦
住まい : 熊野市井戸町

経歴

福島県会津出身
美術大学(東京)卒業
会津に戻り、木工・畑作業など
2014年5月 熊野市へ移住


「田舎に住むことに関して」

Q. 熊野市へ来た経緯を教えていただけますか?

 ここには以前に来たことがあったし、下見にも来て、良いところだなと思った場所なんですけど、はじめは住むことになるとは思っていなかったです。今までは、自分がしたいことを実現できる場所をたどり歩くように住む場所を決めてきたんですけど、今回はどちらかというと夫の仕事に付いてきた感じですね。自分がしたいことは、まだほんの少ししかできていないんですけど、少しずつ実践していきたいなと考えています。

Q. その「したいこと」について詳しく教えていただけますか?

 したいことはたくさんあるんですけど、一言で言うと「人と関わる中で、自分を表現すること」ですかね。
 もともと「もの」や「暮らし」に興味があって、美術大学に通っているときも民俗学とか文化人類学とかが好きだったんですけど、熊野は福島県とは違う気候風土にあるので、木や家のつくりなんかにもついつい目が行ってしまいます。人の手が加わる経年変化によって、どんどん存在感を高めていくようなものが好きなので、その土地の民具なんかも大好きです。熊野ではまだ民具を見ていないんですけど、とにかく荷物がいっぱいあるところが好きで、納屋があれば掃除をしてでも入ってみたいし、そんな収集活動をしにいろんなところを回ってみたいですね。出来ることなら古道具屋とかやってみたいです(笑)

 なんというか、その「暮らしている」っていう感じが好きで、おばあちゃんと話すのも好きだし、百姓のおじさんと話すものも好きだし、そこで長く暮らしてきた「知恵」がある人がいると、ついていきたいなあと思います。ここに来る前は福島の会津に住んでいたんですけど、そこにはまだ昔の暮らしが残っていて、ものしりのおじさんを追いかけたりしていました。山の暮らしを学びたいと思って地元の人の家に住み込んで、田んぼとか畑とか、木工をやったりもしてました。今も残っている技術というか、生活レベルの知恵が好きなんですけど、今はそれがあまりに失われすぎていることに少なからず危機感を感じていて、梅干しの漬け方とか、ロープの結び方とか、何気ない日常の知恵をできるだけ継 承していきたい気持ちがあります。古道具収集も知恵の継承も、どちらかというと「みんなで共有したい」という強い気持ちが大前提としてあるので、それをひとりでやるのではなく、単純にみんなで集まってそれをするのが楽しみなんですけどね。

 とりあえず暮らしていけるだけの収入がないと何もできないので、まだ何か始めたというわけではないんですけど、まずはなるべく自給の暮らしに近い生活を実現して、余力があれば今後いろいろ手を出していきたいですね。失敗もして良いから、自分の暮らしをブラさないように、自分なりに積み重ねていきたいです。

Q. 熊野に移住して良かったこと、気になることなどありますか?

 人との出会いには恵まれていますね。移住してきた人なんかは気も合うことが多いし、知り合いの幅は増えている気がします。ただ、ここで一生生活するような意気込みがあるかというと今はまだはないので、「ここに住んで、頑張って」とか「ずっとここにいて」などと言われると、ありがたいことなんですが、それをプレッシャーに感じることも多いです。 

 あとは、何でもそうなんですけど「良いものを作れば売れる」という考えが私の中にずっとあって、ただ量をたくさん作ればいい時代ではないと思いますし、売り方を工夫すれば物は売れると思っているので、例えば今の効率優先の農業なんかにも違和感を感じています。自分が作る野菜くらいはなるべく昔のように土の力で育てたいなあと思っていたので、畑を借りて実際にそれを実践できている環境にあることはありがたいですね。

「田舎での子育てに関して」

Q. 簡単に今の状況を教えていただけますか?

 まだ子供も小さくて保育所に預けたりはしていないのですが、熊野市が運営している「ひよっこ」という子育て支援センターによく行っています。保育所に併設された児童館みたいな場所なんですけど、同世代の子育てをしているお母さんたちが集まっていて、最近は一緒にご飯を食べに行くような知り合いも出来ました。私は移住者ですし、自分たちだけで子供の面倒を見ることにすごく不安があったのですが、普通に過ごしていたら会うことの無いお母さんたちに出会える貴重な場所があることで、すごく救われていますね。そこがなかったらどうしていたのだろうと今でも思います。

Q. 今の「子育て観」などあれば教えてください

 そうですね、全て教育機関に頼るのではなくて、自分で出来ることはなるべくしてあげたいですね。せっかく田舎にいるのだから、自然環境が揃っているのだから、大自然の中で遊んだり、田舎ならではの生活を実践したりして、体験を通した学びを提供してあげたいと思っているし、自然とともに生きる力を子供には身に着けてほしいなとも考えています。ちゃんと火を使う生活を見せてあげたいし、排水の行き先だとか、薪はどこから来ているのかとか、すべてが循環しているような生活を見せてあげたいとも考えています。都会だといろいろ制限もあるのですが、田舎ではそんな体験が実現できる環境が揃っていると思うので。 

 私は、両親が自営業をやっていたということもあるのですが、小さい頃にあまりこういう経験をしていなくて、夏休みに一緒に川に泳ぎに行ったりなんてほとんどなかったし、せかせかと働いている様子が嫌だなと小さい頃から思っていて、寂しい思いをしながら幼少期を過ごしていました。こうした田舎での自然に囲まれた生活というのが自分の憧れだった分、自分の子供にはしっかり体験させてあげたいと考えていますし、とは言え私もまだまだ多くのことを学びたいので、この子と一緒にたくさん共有していきたいです。

根來真代さん"

Q. 実際熊野市に住んでみて、その観点からどのようなことを感じますか?

 なんとなく感じることなんですけど、都会に出ていく子たち、特に地元の魅力を感じず離れてしまう高校生たちって意外と多いんじゃないかと思います。卒業後は名古屋や東京に行くということを、中学生の時点で決めているような子がいて驚くことがありました。別に都会に出ていくこと自体を反対しているわけではないんですけど、こっちに住んでいる大人としてはその感覚をちょっと寂しく感じますし、またこちらに戻ってきてもらうためには私たち大人に何ができるんだろうってよく考えます。せめて良い思い出をもって外に出ていってほしいなと思うのですが、やはりここでしかできないことを小さい時に体験させるということが、その足掛かりになる気がしています。中学生にそういうのをさせると無理強いになるかもしれないけど、面白がって何でもやるような小学校低学年くらいの子たちがさらっと体験できる環境を作ってあげることで、大人になった時に 「昔こんなことしたなあ」とふと思い出してくれたり、「またそういう暮らしがしたいなあ」と思って戻ってきてくれたりするんじゃないですかね。環境としてはとても適していると思いますし、幼少期を田舎で過ごすというのはとても良いことだと思います。小学校から英語を学ぶのもいいけど、都会ではなく田舎に視点を向けて、田舎でちゃんと遊べる術、生活できる術を小さい頃から身に着けられる環境を整えてあげたいですね。次世代にこうやって昔の知恵を伝えていくことは、私のしたいことでもあります。

Q. 子育てに関して、不安に思っていることや、今後期待していることはありますか??

 田舎に住むと決めた時点で不便なことは覚悟していたので不安という不安はないのですが、同世代の子供たちがもう少し増えたらいいなとは思いますね。同級生が多いのが良いのか少ないのが良いのかという話にもなりますが、人数が少ないからと言って田舎に住まない理由にはならないですし、1人でも多ければ全然環境は変わるんだろうなとも思うんですけど、少ないなりに子供たちの生活・教育をいかに充実させていくかというところで、もっと親として積極的に関わっていければと考えています。人数が少ないからこそできる親の関わり方もあると思いますし。そういう意味では、子育て世代の人たちを集めて一緒に何かしたいなとも考えていて、先ほどから言っているような「そこでしかできない教育」を具体的に実践したいと考えています。例えば、「森のようちえん」のような取り組みなどは素晴らしいと思っていて、単に田舎アピールをするのではなくて、こうした教育環境を目指して移住するような人がもっと増えることを期待していますし、そこに集まった人がそれぞれアイデアを持ち寄って新たな取り組みが始まる雰囲気になれば素敵だなと思います。保育所の給食の野菜は家庭菜園で採れたものを使いましょうとか、その程度の小さなことからでいいと思うんです。お金をかけずにどんどんチャレンジできるのも田舎ならではのアドバンテージだと思うので、そうした取り組みが増えるような、楽しい取り組みが始められればいいなと思います。

(取材・編集:横田直也)